(備忘録)あらためて、「天ヶ瀬冬馬」を考える。

 

天ヶ瀬冬馬の魅力についてあらためて考える機会があり、そこで考えたことを記す備忘録です。

 

 

その情熱はどこからやってきたのか

 

天ヶ瀬冬馬が持つ「情熱」。

それは他者の人生を変えてしまうほどの熱量があり、Jupiterの原動力のひとつとなっています。

 

それほどの熱、これまでの十数年の間にサッカーや料理やフィギュアに傾けていてもおかしくないはずなのに、選手や料理人など、冬馬くんがその道のプロを目指したような形跡はありません。

もしもアイドルになる前の冬馬くんに現在のような情熱があったなら、それらの趣味を極めていたのではないかと思います。けれど、そうではなかった。

それまでの冬馬くんは、やりたいことも、なりたいものもなかったのです。

この物語は「アイドルマスター」であるからです、と言われればそれまでだ(し、それで充分であるとも思っている)けれど、「これまで情熱を傾けるものがなかった」というところに天ヶ瀬冬馬という人物の奥行きを感じます。

 

その「情熱」は、どこからやってきたのか。

やりたいことも、なりたいものもない。
その心に火をつけたのが、黒井社長でした。

ボーイミーツ社長。アイドル天ヶ瀬冬馬の起点には、黒井崇男が立っているのです。

 

Jupiterの「最初のファン」

 

アイマスでは、アイドルの最初のファンはプロデューサーである、とされています。「ファン数1人」という表記はシリーズをまたがって適用されていて、この世界の法則でもあります。

 

"Jupiter 3人の「最初のファン」"は、黒井社長であるといえると思います。

あの黒井社長が、魅力を感じない人間をアイドルにするはずがない。それは冬馬くんも実感しているところであり、黒井社長が言った「天ヶ瀬冬馬には頂点に立つ価値がある」という言葉*1は決してハッタリや嘘ではなく、そしてその言葉たちは冬馬くんにとって、「最初のファン」から贈られた、大切なものでした。

ファンの期待に応えたい。冬馬くんがそう思うとき、そこにはきっと、黒井社長の存在も含まれていたと思います。

もしかすると、今も。

 

レンチキュラー

 

天ヶ瀬冬馬は目標に向かって真っ直ぐに駆けていくひとです。しかしそれは、向こう見ずな真っ直ぐさではありません。言葉にする以上にたくさんのことを考えている。

彼を最も近くで見てきたふたりはこう言います。

 

冬馬君、悩むの好きだよねー

カルボナーラ会議 ~天ヶ瀬冬馬の憂鬱な1日~」*2  215頁 御手洗翔太 台詞

やっぱり冬馬君、繊細すぎ!

カルボナーラ会議 ~天ヶ瀬冬馬の憂鬱な1日~」216頁 御手洗翔太 台詞

もしかして、なんか抱え込んじゃってる感じ?
冬馬君って、そういう面倒なところあるよね〜。

CONNECT WITH STAGE! SideM 8th STAGE連動ストーリー7 第2話*3 御手洗翔太 台詞

冬馬ってさ、意外とセンチメンタルなところ、あるよね。

CONNECT WITH OTHERS! 10周年記念ストーリー4 第5話*4 伊集院北斗 台詞

 

ひとりで悩んで抱え込む、繊細で面倒でセンチメンタル。

アイドル天ヶ瀬冬馬のパブリックイメージからは遠いことばが並びます。どれも確かに冬馬くんの中にある要素で、北斗も翔太も、そういう冬馬くんをとても大事にしています。

 

ファンにとっても同業者にとっても眩しい存在である彼は、実際に「眩しいひと」です。どこまでも努力ができるし、それを苦に思わない。現状に満足せず、常に高みを目指して走り続けている。

けれど、その道のりは決して楽な道のりではなく、迷い、悩み、苦しみながら進んできたひとでもあります。そして冬馬くんは、そういう部分を他者に見せたがりません。

 

冬馬くんについて考えるとき、しばしばその「静けさ」についても考えます。

ステージ上の姿は常にエネルギッシュでありながら、モノローグは意外と静かな場面もあったり*5、アニメで薫が独りで行動していた時も、事務所のメンバーが不安に揺れる中、感情の話はせず淡々と、「このままでは良くない」という"事実"の話を輝にしていました*6

アイドルマスター2のエンディングにおいても、ただ穏やかに佇んでいた。

冬馬くんの中に存在する、激しさと静けさ。それは冬馬くんの中で溶け合い、うつくしいマーブル模様を描いています。

 

この穏やかで静かな面について、天ヶ瀬冬馬のもうひとつの側面として考えてきたのですが、最近は、この静けさこそが、天ヶ瀬冬馬の芯の部分であるのかもしれない……と考えています。

黒井社長からスカウトを受けるまで目標がなかったことを考えると、冬馬くんのこれまでは、エネルギッシュというよりもむしろローなテンションの時間のほうが多かったのでは。(だからこそ、孤独の力を信じる黒井社長に見出されたのだ、とも。)

 

時に大人のような冷静ささえ持ち合わせ、
眩しいだけではないものにも目を凝らし、心地良いだけではない音にも耳を澄まして、そうしてステージまで駆けて行く。

「冬馬が年相応なところを見せてくれると なんだか安心するよ」*7と北斗が言ったのは、そういう姿をずっと見てきたからなのかなと思います。

 

未明の惑星

 

小説「カルボナーラ会議 ~天ヶ瀬冬馬の憂鬱な1日~」*8にて、冬馬くんが北斗と翔太に悩みを吐露する印象的なシーンがありました。

トップアイドルってどうなれば良いのかって……
(中略)
黒井のおっさんはさ、俺達が今のままじゃトップになれないから、あんな小細工をしたんだろ?

カルボナーラ会議 ~天ヶ瀬冬馬の憂鬱な1日~」215頁 天ヶ瀬冬馬 台詞

この時の冬馬くんは、黒井社長が小細工をしたのは自分たちの実力が足りなかったから、だと考えているのです。上記で引用したシーンはコミカライズに収録された小説で描かれたものですが、ほかの媒体での冬馬くんにも、同様の思いがあるのではないかと思います。

 

かつてフリーで活動していた頃に「961プロから文句はきていないか」と北斗に確認していたことがありました*9

きていない、と聞いた後にうまれた少しの間。冬馬くんは何も語らずモノローグもないシーンなので、これは勝手な想像ではありますが、本当は文句のひとつくらいきてほしかったのかな、と感じました。

黒井社長がライブに来るかもしれないという噂を聞いて、ぐっと緊張していたこともありました*10

実力重視の黒井社長の目に留まるということは、まさしく「自分たちには実力がある」ことの証明になり、「最初のファン」に応えることにもつながります。

黒井社長に実力を認めてもらいたかった。
「最初のファン」の期待に応えたかった。

それは、冬馬くんの中でいまだ消化できていない想いなのではないでしょうか。

 

Jupiterにとって、黒井崇男はとても大きな存在です。

世界から天ヶ瀬冬馬を、伊集院北斗を、御手洗翔太を見つけたひと。

星が巡り、いずれ再び会う日が来るのだろう、と思います。

 

それは冬馬くんにとって、ひとつの夜明けであるかもしれない。

 

 

 

 

(おまけ)なぜ「料理」なのか

 

冬馬くんの趣味の中でおそらく最もプロの腕前に近い「料理」。

かつてCafé Paradeの東雲荘一郎にもその手際を褒められ、シェフを目指さないかと持ち掛けられていたことがありました*11

複数ある趣味の中で、なぜ「料理」がひときわ上手いのか。

それは、冬馬くんの生活と性質との相性が良かったから、だと思います。

冬馬くんの暮らしに必要なスキルで、ひとりでできて、こだわることもできる。

料理は好きでやってることだが、できたらもっと上手くなりたいし、
上手くできればまた嬉しい気持ちになるからな。

「新春万福 七福神ライブ」 第3話 天ヶ瀬冬馬 台詞

このように料理好き・食事は基本自炊な冬馬くんですが、心身の疲労で数週間ものあいだ料理をしなかった(さらに、ちゃんと食事をとらなかった)ことがありました*12

好きなことができなくなるほどに大変な時期だったということでもありますが、冬馬くんにとって料理は、"誰かのため"という側面も大きいのかなと思います。ファンのために全身全霊でステージに立つ、そういった献身性が「料理」にも関わっているような気がします。

 

すこし横道に逸れますが、"数週間ちゃんと食事をとらなかった"という描写を見るに、Jupiterが「冬馬の家で」「一緒に食事をとる」ということは冬馬くんにとって結構重要なことなのかもしれません。

北斗と翔太が来訪することによって自然と料理・食事の時間が設けられ、栄養を摂取でき、会話の中で悩みを共有することもできる。高い頻度で天ヶ瀬家に集うJupiterですが、冬馬くんとしてはこのサイクルに助けられているところも多いのではないかな、なんて思います。疲れている時にひとりでいたら、寝食を忘れて仕事に没頭しそうなので……。

 

 

 

 

*1:『Jupiter 〜THE IDOLM@STER〜』(ミユキ蜜蜂、2013、白泉社

*2:『Jupiter 〜THE IDOLM@STER〜』(ミユキ蜜蜂、2013、白泉社)内収録、原作:バンダイナムコエンターテインメント、著者:株式会社バンダイナムコスタジオ 田中絵美

*3:「ライブに向けて…一緒にギュッと集まって!」

*4:「10th Anniversary Fes~サイコーのパッションで!~」

*5:「Myriad Stars Live」の 雑誌「みんなで作る宇宙」は顕著かなと思います。

*6:アニメ「アイドルマスターSideM」 第12話「どんな理由も、どんな夢も、、、」

*7:アイドルたちの1コマ「趣味も全力!」2023/10/22

*8:*2に同じ

*9:アニメ「THE IDOLM@STER Prologue SideM -Episode of Jupiter-」

*10:「スーパーライブフェス2015」冬馬雑誌「いつでも、自分らしくやるだけ!」

*11:「X’mas Live 2014 -Side:Sparkling-」

*12:こちらも、小説「カルボナーラ会議」より。